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【モブ虎/1】痴漢電車 【4】/完

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「ちょっと待て! 早まるな、俺!」
 叫びながらがばっと身を起こした虎徹は、自分自身の声で覚醒した。と同時に、周囲の景色が変わる。
「…………あれ?」
 どこだ、ここ。
 さっきまでは確かモノレールの中にいたはずなのに、今はベッドの上だ。しかもどことなく見覚えのある部屋のようだと首を傾げながら視線を転じると、すぐ隣に嫌味なほど整った若い男の顔があった。
 虎徹の相棒、バーナビーだ。
「チッ、あと一歩だったのに」
(いきなり舌打ちですか)
 隣のハンサムくんはなぜか不満そうに表情を歪めて髪をかき上げている。どうやらだいぶご機嫌斜めらしい。
(そういやベッドしかないこの素っ気ない部屋、こいつんちの寝室か)
 しかし、なぜ同じベッドで一緒に寝ているのか。その理由が思い出せない。
「なんで俺、ここに」
「覚えてないんですか? 仕事帰りに食事した店で酔いつぶれて寝てしまったんですよ」
「あー…………そうだっけ? すまん」
 どうやらまたやってしまったようだ。ひどく夢見が悪かったのも酒のせいだろうか?
(だとしても、あの夢はないよなぁ)
 虎徹は眉をしかめた。
 大抵の場合、目覚めと共に夢の記憶は霧散していくものだが、さすがにさっきの夢は強烈すぎた。悪夢で飛び起きたと言ってもいいぐらいだ。まだ心臓だってドキドキしているし、嫌な汗でもかいたのだろう、肌全体がしっとりと汗ばんで濡れている。
(いったいなんであんな夢見たんだ?)
 夢は願望の表れだとよく言うが、到底それを認める気にはなれなかった。
 虎徹がバーナビーが手にしているヘッドホンに気づいたのは、その時だ。
「なんだ、またクラシックか?」
 寝ている間にまで聴いてるのかと何気なく手を伸ばし、それを奪い取る。
「あ、ちょっと」
 ところが軽く耳に当ててみると、流れていたのは音楽ではなく人の話し声だった。
『……大勢の男たちに責められ続けながらも、虎徹の脳裏に浮かんでいるのはバーナビーただ一人だった。身体中を弄っている手も、中を掻き回している硬い楔もすべて彼のモノだと思えば、屈辱は快感へとすり替わる』
 聞き覚えのあるそれは紛れもなくバーナビーの声だ。
「…………朗読? けど、この内容って……」
 読み上げられているのは、まるでさっきの夢の続きのような――――
「まさか」
「気づかれたか」
 ぼそりと聞こえてきた独り言に、虎徹は顔の筋肉を引き攣らせた。
「あのぉ~、バニーちゃん? それはいったいどーゆーことかなぁ?」
(さっきの夢はおまえのせいかよ!)
 こめかみのあたりが怒りでピクピクしてくる。しかしハンサムガイのニューヒーローはこの程度では怯まないようだ。
「いわゆる睡眠学習というやつです」
 気障な仕草でシャツを羽織りながら、バーナビーはしれっと答えた。少しも悪びれずに。
「はぁ? なんの学習だよ?」
「聞いていたんだから覚えているでしょう? 少なくともあなたの脳には刻まれているはずですよ」
「……さっきの夢のことか?」
「ええ、あなたが僕に対して素直に接することができるように、効果的なシュミレーションを考えて、夢の中で体験してもらうことにしたんです。睡眠学習は結構いい効果が得られるようですから」
 握り拳で堂々と主張されてしまったが、彼が言うところの効果的なシュミレーションとはつまりモノレールの中でいろいろとヤラレまくったあれやこれやなわけで。
「けど、俺…………夢ん中で痴漢されてただけなんだけど」
 いったい何を学習しろと言うのだろう。
「それは第一ステップです。常識という枷から逃れて新しい扉を開いたあなたが、僕のところへ駆け込んでくるための布石。それが今回のシナリオでした」
 メガネをかけてキラッとさせていても、言ってることは単なる変態なのだが、果たして本人は気づいているのだろうか。
「そのためにわざわざ僕が自分で録音したんですよ」
「……へー、そう……」
 だんだん答える声や表情が平べったくなっていくのは、不可抗力というやつだ。
「シナリオも練りに練って、ほら、こんなに分厚くなってしまいました」
 彼が取り出した紙の束は確かに分厚かった。印刷された文字はまるで芝居の脚本のごとく、セリフやト書きがびっしりと綴られている。その中にはきっと夢の中で虎徹が痴漢たちに囁かれたセリフも記してあるのだろう。
「…………はは、は」
 おかげで最近寝不足になってしまって、と自慢げに笑っているハンサムにどこからどう突っ込んでやればいいのか、もう分からない。
「最近頻発していると噂のある集団痴漢事件をモチーフにしてみたんです。自分で言うのもなんですが、苦労した甲斐があってなかなかいい出来になったと思うんですが、いかがでしたか?」
 分からないので実力行使だ。
「いいわけあるか――――――っ!」
 叫びながら立ち上がった虎徹は、うっとりしている男の手からその分厚い紙の束を奪い取り、ベリッと音を立てて破り捨てた。
「ちょっと、破かないでくださいよ」
「うるせぇ! こんなもん破くに決まってんだろ! このっ、このっ!」
 ついでに足で思いきり踏んづけてやる。
「おまえのせいで俺は…………ん?」
 そこでようやく気づいたのだが、シーツの海から抜け出した身体は上だけでなく下も一糸纏わぬ状態だった。つまりスッポンポン。全裸だ。
 泥酔して寝てしまった人間を寝かせるだけなら、何も下着まで脱がせる必要はない。たとえ服を汚してしまっていたとしても、だ。
「バニーちゃん…………訊くのすごーく嫌なんだけどさ、ひょっとして……」
 顔を強張らせて振り向いた虎徹に、ハンサムメガネはキラリと光る笑顔で親指を立てて見せた。たらりと一筋流れ落ちる鼻血付きで。
「睡眠学習をより効果的にするために、実践も同時進行で試してみました」
「痴漢はおまえかっ!」
 報復を拳でガツンと一発、バーナビーの顔面に食らわせてやる。相手が年下の相棒だろうと顔も売れているイケメンだろうと容赦はしない。
「痛いなぁ、何するんですか」
「てめぇの胸に訊いてみろ! 人の寝込みを襲いやがって」
「挿入、中出しはまだしてませんよ」
「威張れるか!」
 この人でなしめ、と憤然と指差しながら告げた。ここはビシッと言ってやらねば。
「とにかく二度とこんな真似するなよ! でなきゃ誰がなんと言おうとコンビ解消だ。いいな?」
「……分かりました。すみません」
 それでも肩を落とし、殊勝な態度で項垂れている姿を目にしてしまうと、虎徹はすぐに許してしまうのである。
「ま、まぁ分かりゃいいんだよ」
(こいつ、俺のことが好きって本気だったんだな…………だからって、やり方はめちゃくちゃだけど)
 こぼれ落ちたため息は深かったが、ここで気分を切り替えることにした。過ぎたことをいつまで愚痴っていても仕方がない。
「ところで今、何時だ?」
「十時半を回ったところです」
「もうそんな時間かよ」
「何か予定でも? 今日は一日オフですよね」
 しまったなという顔をしたのだろう、バーナビーが尋ねてきた。
「昼過ぎに昔の知り合いと会う約束してるんだ。ずいぶん前にヒーローを引退した奴なんだけどな。久しぶりにこっちに来てるって連絡あったから。一旦アパートに戻って着替えねーとなぁ。あ、シャワー借りるぜ?」
 家主の返事も待たずにバタバタとバスルームに向かった虎徹は、急いで身支度を整え、自宅アパートへと戻っていった。




 着替えと軽いブランチを済ませて、再び家を出たのがちょうど一時過ぎ。久しぶりに再会するのだから待ち合わせは夜にして酒でも飲もうと誘ったのだが、相手は何やら話があるらしい。あまり待たせてはまずいだろう。
「ま、次のやつに乗れば大丈夫だろ」
 発車時刻の表示を見ながら改札を抜ける。ところが駅の階段を駆け上がろうとした途端、悲鳴が聞こえてきて虎徹の足が止まった。
 視界に飛び込んできたのは階段から落ちそうになっている女性の姿だ。
「危ない!」
 迷わず全力で駆け寄っていく。
 能力発動は無意識だった。
「どうもありがとうございました。急に気分が悪くなってしまって」
「いえいえ、何事もなくてよかったです。あ、それじゃ俺は急ぎますんでこれで」
 何度も頭を下げる女性に笑顔で返して今度こそ階段を上がっていくと、ホームにはすでにモノレールが停車していた。
「やべっ!」
 鳴り響く発車の合図に急かされて、慌てて駆け込む。
「……ふぅ、間に合った」
 ほっと安堵の息をついたものの、ふと何かが引っかかって首を傾げた。
(――――あれ? なんかどっかで似たようなことが……)

 昼過ぎに飛び乗ったモノレール。
 予期せぬ能力の発動。
 尻ポケットには家で読み損ねた新聞が捻じ込んである。
 そして、目の前にいるスーツ姿の集団。

(まさかな……ハハハ)
 既視感という単語が脳裏をよぎる。
(単なる偶然だ、偶然)


 じわりと冷や汗を浮かべた虎徹の背後で、扉がゆっくりと閉まった。


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